常識って何? その③

インドに関して、少し暗い話ばかりを先にしてしまって、且つ、本来のタイトルから離れてしまっていることを反省し、今回はタイトル通りでもう少し「笑える」部分を書きたいと思う。

 

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インドの都心部をタクシーやバスに乗って走っていてまず思うことは、渋滞が酷くやたらめったら喧しいことだ。関東の人が大阪・御堂筋を走るとその乱雑さに面食らうと思うが、そんなレベルではない。バス・タクシー・自家用車・バイク・リキシャー(自転車の人力車)、オートリキシャー(バイクの人力車のようなもの。タイでいうトゥクトゥク)、これらが無秩序に入り混じり、それに加えて牛までそこら中にウロウロしている。

 

おまえ、何か日本よりインドの方が似合いそう。。。

 

列をなさずぐちゃぐちゃの中、バスでもバイクでも皆同じようにそれぞれが隙間を縫うように走る。まるで会話でもしているかのように、誰もがひたすらクラクションを鳴らす。頻繁に鳴らす、というのではない。ずっと鳴らし続けているのだ。



運転手も結構怖い奴が多い。恵は国内線空港と国際線空港を繋ぐシャトルバスによく乗ったのだが、ある時、運転手のすぐ後ろに座ったことがあった。何やら聞こえると思って運転席を見ると、運転手が歌っていた。ダッシュボードにはガネーシャ(インドの恵比寿さん)の写真が飾ってあり、香が炊いてある。足元を見るとなんとチャッパル(インドサンダル)ではないか。

「大丈夫か、このおっさん……」

大渋滞の中、結構なスピードで隙間を縫いながらバスは走る。おっさんは歌っている。ひたすら歌っている。そのうち悦に入り始め、首を振りながら歌い始めた。それでもバスは隙間を探して猛進する。

「おいおい。前ちゃんと見とんのか?」

心配になってきたが、その時またガネーシャが目に入り、

「やっぱりこの国の人は神に守られてて、こんな状態でも事故らへんのかなあ……」

と思っていたら、いきなりタクシーに擦った。

「おいおい」

続いて今度は路肩に停まっているオートリキシャーのケツをぶっ叩いた。

「ぜんぜん、守られてへんやんけ……」

前を見ているのが怖くなり、ふと横の窓の方を向くと、すぐ近くに微笑む4つの顔があった。4人乗りのバイクだった。いや、そういうのがあるのではなく、普通のバイクに4人乗っているのだ。しかも全員ノーヘルで。タンクに小さい方の子供を乗せ、運転する父親と母親で大きい方の子供をサンドイッチにしていた。

「いや、そんなに微笑まれても……」

なぜか全員恵を見て無意味に微笑んでいた。



このぐらいはまだマシな方で、「微笑みの国」でも書いたが、郊外に行くとよくトラックなど背の高い車が横転しているのを見かける。時々はバスもコケている。これは作業か費用かどっちをケチったのか分からないが、道の真ん中にしかアスファルトがない道があったりするのだが、対向車が来た時にはどちらかがアスファルト下に片輪を落とさなければ交差できない。だが、結構な段差のため、その場合は速度を落とす必要がある。

経験上、インド人、どいつもこいつも譲るのを嫌がる。だから、そのまま突っ走る。チキンラン状態。根性なし(まとも)な方が速度を落とし段差に片輪を落とす。という構図になるのだが、恐らく相手がいずれ降りるだろうとどちらもが思っていた場合に、ギリギリになって高速のまま片輪を落としてひっくり返るのだろう。

恵もタクシーでは何度も怖い目をした。「微笑みの国」で書いた「タイのタクシーの怖さ」とはまた別の意味でだ。先のチキンランも何度も経験している。ギリギリでノーブレーキのまま段差を降りて、危うくハンドルを取られて吹っ飛びそうになったこともあった。



恵がタクシーの助手席に座っていた時のこと。田舎道ではよく大量の牛が道を横切ることがあるのだが、そんな時でもインドの運転手はひたすらクラクションを鳴らす。だが、インドの牛はそんなものには動じない。

タクシーは速度を落とさず、その群れに向かって突っ走る。

牛も気にせず、道を横断する。人だけでなく、インドでは牛まで譲るのを嫌がる。

だんだん距離が近付いてきて、イライラした様子で運転手がクラクションを鳴らしまくる。が、やはり速度は落とさない。

ようやく、牛が群れで渡るのをやめ、一列で渡り始める。

タクシーは突っ走る。

一頭、また一頭と、「まだいけるか?」という感じで渡り始め、切れ目ができ始めた。

タクシーがクラクションを鳴らし続ける。もう距離はない。

次の牛がためらって止まった、、ように見えた。タクシーはその間に擦り抜けようとした。その瞬間、何を思ったか、その牛がまた急いで渡ろうと道に出てきた。が、間に合わないと思ったのか、途中で、飛んだ。

「あっ」

恵はその牛の見開かれた眼をはっきりと見た。顔は前に向けたままだったが、こちら側の片目が「死ぬ!」と言っていた。

最悪なことに、焦ったためか牛は反対側まで飛べず、道のど真ん中でひっくり返った。

恵は物凄い速度で「嘘やろ!」と思い、存在しないブレーキをいっばいに踏んだ。運転手も踏んでいた。牛に激突したらどんな風になるのか、全く見当もつかなかった。

運良く、タクシーは本当にギリギリで停まった。牛はすぐに立ち上がり、道を渡って消えて行った。

 

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インドに関する知識を全くお持ちでない方は「常識って何?」のその①・②・③と読んできて、「嘘やろ、そんなん、一人の人間が何回か旅行に行っただけでそんな変な経験いっぱいするはずないわ」と思われることだと思う。が、これは全て実話で、しかも聞いた話などではなく恵自身が直接体験したもので、尚且つ、これはまだほんの一部なのである。

 

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では、ここで参考までに恵が体験したのではない話をする。

確か国語の教科書に書いてあったことだと思うのだが、この記事タイトルと同じような意見が書かれていたと記憶している。その筆者にはインド人の知り合いがいてその人と会食をすることになった。だが、時間になっても現れない。1時間過ぎても2時間過ぎても現れない。「もう来ないのだろう」と思った頃に現れた彼は全く悪びれずニコニコしている。それで少しムッとなった筆者にそのインド人が言ったことは謝罪ではなかった。

「何を怒っているのですか? 催し物や約束と言うものは、待っている間がわくわくしていろいろ想像して楽しいのではないですか。きてしまったら後は終わるだけですよ」

と逆に不機嫌なことをたしなめられ、変に納得してしまったという趣旨だったと思う。

その同じエッセイに、運転手が踏切に列車を置いたまま茶を飲みに行く話も書いてあり、その写真まで載っていた。列車が停車しているため遮断機が上がらず、人も車も渡れず大勢が待っている写真だった。



こんなことは当然、日本では考えられない話であり、1万歩譲っても「踏切の手前で停めろ」と思うだろう。そうすれば、少なくとも交通の邪魔にはならない。乗客が待たされるだけだ。

ではなぜ、停車場所が踏切の上だったのか。答えはただ単に「茶店に近かった」ためらしい。

1つ目とは違い、2つ目の運転士の行動の正当性を示すことは書かれていなかったと思うが、ただ、それを「大したことだと感じず待てる」インド人の大らかさについて書かれていたように記憶している。



また、恵自身の経験に戻すと、「待たされる」ことはインドでは当たり前のことである。何でもどこでも待たされる。午前中に飛ぶはずの飛行機が、目の前にあるにも関わらず夕方まで飛ばなかったこともある。

たいして何かの作業をしている様子はなかったのでトラブルのようではなかった。荷物を積み込んでいる様子も給油している様子もなかった。そうなると、理由は恐らく「茶」ではなかろうかと思う。パイロットがどこかに行って戻って来なかったのだろうと推測する。



また、インドの特徴として、列の「横入り」が挙げられると思う。インドでは何でもどこでも列をなす。とんでもなく長い列をなす。それに加え、多くが横入りするため、なかなか前に進まないのだ。ある人は「日本人はなぜ横入りしないのか」と逆に訊かれたことがあったと言う。

恵も長い列を待っていてようやく自分の番になった時に横入りされたことがある。次が自分の番という頃、2人連れの若者が恵のそばまで話しながらやってきた。何しに来たのか、と思っていると、前の人が去ると同時に、2人が会話したまま、ちらっと恵を見て当たり前のように前に割り込んだのだ。

腹が立って恵はその2人を両脇に押しのけてカウンターについた。2人は「ああ、アカンかったんか」という表情で大人しく「次を」待っていた。

これは確か1度目の旅行時のことで、恵はまだ「インドの常識」を知らなかったのだが、あの「ちらっと見た」のが「OK?」という合図だったのだ。あの瞬間に首を横に振っていれば、彼らは横入りしなかったわけだ。

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インドの常識で、恵が一番苦手なのが「くっつく」ことだ。待つことは、インドに1週間もいれば慣れてくる。それが当たり前になる。行きは1・2時間待たされただけでイライラするが、帰る頃には飛行機が半日飛ばなくても何とも思わなくなる。日本に帰ってきて、そのあまりの速度の速さに対応できなくなるくらい慣れる。

が、「くっつく」のは嫌だ。いつまで経っても慣れない。どうせなら女性を挟んでほしい。それならまだ嬉しいこともあるのだが、太ったおばさんだとやはり苦しい。また、インドでは男性ラインと女性ラインに別れる場合がある。トイレの列などは当然別れる。その男性ラインが悲惨なのだ。

食事するため、初めて列に並んだ時のこと。後ろのおっさんがくっついてきた。キモいので前に詰める。またくっついてくる。危ない奴かと思い、また前に詰める。が、やはりくっついてくる。股間を押し付けてくる。パジャマクルタ(インド服)は生地が薄いので形まで分かるぐらいの感触がある。非常にキモい。だが、もう前には詰められない。前の人との隙間がほとんどなくなったからだ。後数センチ詰めると今度は恵が前の人にくっつくことになる。

そこで予想外のことが起こった。

「ここ空いてるか?」

列に並んでいなかった男が、突然、恵に訊いた。

「はあ? 何?」

意味が分からず、訊き返した。

「ここ、空いてるか?」

男はもう一度同じことを言った。恵と前の人の数センチの隙間を指差しながら。

「あほか(これは言ってない)、ノー」

反射的に、恵は前の人に股間をくっつけた。

男はすぐ諦めて、別の白人に同じことを訊いていた。やはりインド人以外はくっつくのが嫌らしい。数センチの隙間があったのだろう。が、その白人も恵と同じく、断ると同時に前の人に股間をくっつけていた。



わずか数センチの隙間を指差して「ここ空いてるか」と訊く感性もそうだが、だいたい、たとえ一人分の隙間があったとしても、日本なら列に横入りはしないしできない。後ろに待っている人が大勢いるのだから。当然、後からきたら最後尾に並ぶしかない。

だが、そういった日本人の常識は、走る列車の屋根の上に普通におばあさんが座っているインドでは通用しない。中が混んでいて通りにくいからと、時速100kmで走る長距離列車の外側の窓の鉄格子に掴まって車両間を移動し、乗客に中から戸を開けてもらって入ってくる車掌がいる国では役に立たたないのだ。

もう随分長い間、恵もインドに行っていないので、また日本人の枠にガチガチになっているだろうから、今行けばとんでもなくイライラすることだろうなあ。。。

引きこもり犬・アン」がいるので、後15年ぐらいはインドには行けないだろうが、70歳になっても、やはりどうしても行きたい国である。

「インドの良さが全く書かれていないから、その気持ちは分からない」と仰る方が多いかもしれない。だが、これでも恵としてはいくらかは「インドの良さ」を書いたつもりなのだ。

今までと同じような話なら、まだまだいくらでもあるが、それ以外の利点と言われると何一つ思い浮かばない。いや、浮かばなくはないが、それは今まで挙げてきた一見「欠点」に見える部分の裏返しというか、同じ「彼らの感性」から生まれ出るものだと思うのだ。

恵の文章力のなさや感性によるところもあるだろうが、これで伝わらないとすると、やはり初めに「常識って何? その①」で言った通り、「書くのが難しく、誤解を生みやすい」国ということになる。



それほど多くの国に行ったことがあるわけではないが、とにかく恵にとっては世界で一番興味がある国、、、いや、唯一興味がある国と言ってもいい。

危険なこともあるので注意はしてほしいし、よく調べてからにしてほしいが、できれば一生に一度は皆に行ってほしい国、それがインドである。

 

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