語学が堪能な人々

最近よく思うが、こいつ、そろそろ言葉喋りそう。。。

 

恵が過去に何度もインドに行っていたことは既に「常識って何?」シリーズや「微笑みの国」などで書いたし、英語の勉強に関しては「【英語】その画期的な習得方法」で書いたが、語学に強い興味を持つきっかけとなった話をまだしていなかった。いや、英語にはずっと興味があった。が、実際に本気で取り組むようになるほど印象に残った出来事があったのだ。

 

 

恵は31歳の時初めてインドに行った。そして33歳の時、一度仕事を辞めて2ヶ月間インドに住んでいた。その内の1ヶ月間を過ごした安宿にリサイクルスペースがあったことは「不必要なものは必要な人に」に書いたが、そこでの出来事が語学に興味を持つ一番のきっかけとなった。

向こうで出会った日本人の多くが恵より若い人たちだったのだが、そのほとんどの人が英語を何とか使いこなしていた。まず、それだけでも結構衝撃的だった。20歳前後の子たちでも、みんな会話に苦労していなかったからだ。

内向的に見え、「口利けるのか?」と思う子でも外人と普通に会話する。何しにインドに来たのか心配になるような危ない雰囲気の子でも、ベラベラ話す。聞けばオーストラリアに1年留学していたことがあるそうだ。

逆に、恵より歳を取っている人間の方が、恵より英語がダメな人が多かった。そして、なぜかそういう人たちは若者に厳しい人が多かった。人間としての在り方、日本人としての分別などを若い人たちに説教するのだ。それなのに、会話で困ると常に彼らに助けを求める。しかも「奉仕の精神を持て」とでも言わんばかりに横柄に。

まあ、今回はそういう人たちのことは置いといて。




その安宿のリサイクルスペースのことをもう一度簡単に説明すると、帰国する人間や他の地域に移動する人が不要になったものを置いていき、必要な物がある人がそれらを物色するわけだ。もちろんタダ。その宿には様々な国の人間が宿泊していたが、恵がいた時は日本人がそのリサイクルスペースの管理を任されていた。長逗留者が多かったためか、日本人なら安心だと思われたためだろう。

そのスペースには、インドで生活するための必需品のほとんどが揃っていた。パジャマクルタ(インド服)、ショール、枕、シーツ、毛布から、蚊帳、蚊取り線香、日本のマンガや小説まであった。飲食物以外なら、わざわざ買わなくても、そこで何でも手に入った。

恵は暇な時、よくそこで店番を手伝っていた……と言っても、英語が苦手だった恵は大して役には立たず、ほとんど雑談をしに行っていただけなのだが、そこで何度も驚くことがあった。

ある日、恵はそのスペースに同じ関西出身のK君とM君と一緒にいた。

M君の英語は面白い。彼はアメリカ大陸(北中南米)を数年かけて縦断しているのでいくらでも英語を話せ、スペイン語も結構できるのだが、なぜか接続詞だけ日本語、しかも関西弁なのだ。「〇〇〇、ほんで、〇〇〇、けど、〇〇〇」という感じ。そして、そのことを恵が言うまで気付いていなかったのだ。誰も指摘しないのか? 聞くと、旅行英会話をベースにして、後は長年旅しているうちに英語を身に付けたそうだ。




そして、K君がすごい。彼は鍼灸師で大学には行っていないし語学学校にも行ったことがないのに数ヵ国語ができた。同じくインドで知り合った女性でM子さんという人がいたのだか、その人はロンドンの大学を卒業していて当然英語は完璧なのだが、その人からも「K君、何でそんなに英語ができるの? どこで勉強したの?」と訊かれていた。そして、彼の答えは「いつも勉強してます」だった。その答えにM子さんは「……あ、そう」とよく分からないという雰囲気だった。

実際、彼は特別何かの教材を使うわけでもなく、辞書1つで時間がある時に勉強しているようだった。その日も彼は何かの英語を日本語に翻訳していた。そこへ1人の外国人が来た。

K君が英語で対応すると相手の顔が曇る。そこでK君は恵には分らない言語に切り替えた。すると相手の顔が急に晴れた。その人の国の言語のようだった。K君はすぐに蚊帳を捜し出して彼に渡した。

客が帰った後、「どこの国の人?」と恵が訊くと「ロシア」と彼は答えた。「えっ、ロシア語もできんの? なんで?」と訊くと「2週間、空手の試合でロシアに行ったことがあるから」と彼は答えた。彼も流派は違ったが、恵と同じくフルコンタクト系の空手を以前やっていた。

「2週間て……」

そんなぐらいで喋れるようになるのか?




その後、イタリア人の夫婦が来た。今度はM君が対応したのだが、やはり英語で話すと相手の顔が曇る。「英語を話せますか?」と聞いていたが、相手は困ったような顔をして首を横に振った。そこでM君が「スペイン語は?」と訊くと、またマフィアのボスのような男性の顔がぱっと晴れた。スペイン語は少しわかるようだった。

その後、M君はそのマフィア……じゃなかったイタリアの男性にスペイン語で何か話していたのだが、恵はスペイン語が全く分からないので「えっと」「ほんで」という接続詞しか分からない。K君は相変わらず英語の翻訳に取り組んでいる。

その時、M君が言葉に詰まった。

「ええっと、〇〇ってスペイン語で何て言うんやったかな」

と独り呟くと、すかさず、

「〇〇」

と、K君が顔も挙げずに答えた。彼はスペイン語も何故かできたのだ。恵はそれに対して驚きはしたが「何で?」とはもう訊かなかった。どうせ「いつも勉強してます」「何週間か勉強したから」など、意味不明の答えが返ってくるだけなのが分かり切っていたから。恐らく、彼は非常に集中力の高い人間のようだったので、短期間に膨大な量のことを記憶できるのだろう。

 

 

別の日、恵がリサイクルスペースにいる時、とうとうそのK君でも対応できない人物がやってきた。所謂黒人。しかもアメリカやイギリス系ではなく、純血種のアフリカ人だった。

「ええっと、困ったな。この宿にスワヒリ語できる人間はおらんと思うんやけど……」

と、彼が困っているところへ、ちょうどM子さんが来た。

「どうしたの?」

「いや、この人、アフリカの人らしいんやけど、スワヒリ語なんか知らんから」

K君の答えを聞き終わるより早く、M子さんがその男性に話しかける。すると、また相手の曇っていた顔がぱっと晴れる。そして、彼女らが話している言語には恵は少し聞き覚えがあった。いや、全く理解できなかったが、音に聞き覚えがあったのだ。

その男性が帰った後、M子さんが「彼はアフリカ人だけどフランス語圏の人」だと言った。当時恵はアフリカにフランス語を話す国がある事すらよく知らなかったが、とにかくスワヒリ語は必要なかったのだ。そして、M子さんはロンドンの大学で外国語としてフランス語を少し勉強したことがあるという。

少しって、俺も大学で第2外国語としてフランス語専攻してたんやけど。。。

だから聞き覚えはあったわけだが、恵は全くフランス語が使えない。成績は「優」だったが、それはテスト対策で取れただけで、ほぼ全く覚えてはいなかった。

 

 

ここまで書いてきて、もしかしたら、「それぐらいで、そんなに衝撃受けたん?」と思われる方がいらっしゃるかもしれない、と思った。

確かに。読み返してみるとインパクトが弱い気がする。が、それは恵の文章力のなさのせいだ。実際の現場にいたら、語学に少し興味のある人間なら誰でも「できるようになりたい!」と思ったと思う。

何より、あの「会話できる」と分かった時の相手の表情の変化が大きい。曇っていた顔がぱっと晴れるのだ。恵自身、インドで相手の言うことが分からず苦労したから、その人たちの気持ちがよく分かるのだ。

恵はそれほど社交的な方ではないし、人と多く話したいとは思わないが、「話せない」と「話さない」は全く違う。必要に応じて「通じることができる」ということは非常に大事なことだと、その場所で学んだ。

帰国後、恵は英語の猛勉強を始めて、スーパーエルマーと出会い、英会話が気軽にできるようになった経緯は「【英語】その画期的な習得方法」に書いたので、そちらを読んで頂きたいが、この出来事があったために恵の脳が柔軟になったのか、後に少しタイ語を勉強した時、かなり楽にプチマスターできた。




タイ語の勉強と言っても、タイ語と日本語が交互に入っているフレーズ集を、タイに行く前毎回1~2週間通勤時に車で聞き流していただけだ。後は現地タイで英語がほとんど分からない人々とできるだけ話すようにした。すると、こちらからは語彙が足らずそれほど話せないが、次第に向こうの言っていることは分かるようになっていた。

ホテルや外国人用のレストランの従業員は別にして、タイの屋台やバーの人間などは日本で言えば中学一年で習う程度の英語を駆使して巧みに話す。それもすごく勉強になった。なぜなら、彼らを見ていたら日本人は全員英語ができる人間ばかりだということが分かったからだ。その程度の単語量で延々話すからだ。

日本人の多くは完璧主義者で、自信がないとなかなか英語を話さない。またそのコンプレックスからか英語を話す他人のあら捜しをしようとする。どこか間違いを見つけて笑おうとする傾向があるのだ。

恵も何度かそういう目に遭っているのだが、それが日本人が英語が不得意な原因になっていると思う。知っている単語だけで英語を使う環境が整っていないのだ。日本語でも、適当に話して言い間違えたら言い直すだけなのに。。。そこへ行くとタイ人は違う。いわゆる「間違い」など気にしないのだ。

タイ語には過去形がない。日本語で言う「既に」を付けて過去のことだと示す。つまり、日本語で言うと「私は既にどこどこへ行く」という言い方で「どこどこへ行った」となる。だから、英語でも「I already go to ~~」という使い方で話す人間もいた。間違ってはいるが、それで通じる。

また、別の人間は、外国人との会話で英語をマスターしたせいか、myとyourが逆になっていた。相手の外国人が自分を指して「my」と言い、その人を指して「your」を使うので、yourが自分のことでmyが相手のことだと認識したのだろう。だが、その人はそれでもいくらでも英語で話し続けるのだ。そして、恵には十分その人の英語が理解できた。

なぜか、タイの話に変わってきたので、この辺で切り上げるが、とにかくインドでの出来事やタイ人とのかかわりで、恵のキャパが広がったことは間違いない。実際、上記に挙げた程度のタイ語の勉強だけで、タイ人の何人からも「なぜ、そんなにタイ語が分かんの?」と聞かれた。

「いや、前にもタイに来たことがあるから」

「何ヶ月ぐらいいたん?」

「いや、数日」

「何でそれで分かんの? こっちが今言ってること全部分かってるよね?」

「うん」

相手は信じられないようで、次に「どうやって勉強したん?」と訊いた。

当然、恵の答えは、こうだ。

「いつも勉強してます」



【英語】その画期的な習得方法

ただ聞き流すだけで、本当に英語の語順が身に付くの?

 

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