季節によって住む場所を変える人々

おまえ、住む場所は変えんでええけど、
せめて散歩には行ってくれよ。。。

 

恵がインドに何度も行っていたことは「常識って何?」シリーズや「語学が堪能な人々」などに書いたが、そのインドで知り合った人の中に、季節によって住む国を変えている人が結構いた。

1人は北海道に住むオジサンで、脳卒中で脚を少し不自由にした方だったが、寒い時期はだいたいインドで暮らしているようだった。この人がどんな仕事をしている人かは知らなかったが、年齢的に、恐らく年金暮らしだったのではなかったかと思う。

 

 

もう1人は当時40代で、奥さんと就学前の子供さんとで来ていた方だったが、長野県で山荘を営んでいるとのことだった。写真を幾らか見せてもらったが、彼らはアジアの多くの国を訪れていた。

こちらは年金暮らしではないので収入面が気にかかったが、いずれにせよ、雪に閉ざされる冬は客足が落ちてほとんど収入がないため、その間、家族と暖かいアジアの国でゆっくり過ごすのだそうだ。

どうせ、その間日本にいても、無収入のまま生活し続けることになる。同じ出費なら、飛行機代をかけても生活費が格安な国で数ヶ月のんびりしようということらしかった。多くのアジアの国々は日本より物価が安いため、旅費を考えてもそれほどマイナスは出ないらしい。いろんな国に行けてそれなら言うことないと思う。




恵は彼らが非常に羨ましかった。なぜなら、恵もアジアが好きでインドやタイに長く暮らしたいと思っていたからだ。だが、恵の場合、一度仕事を辞めて2ヶ月間インドにいたのが最高で、後は大概10日前後だった。

当然、国によって物価は違うが、恵がよく行ったインドやタイは、日本よりはるかに貧富の差が大きいので、それほど贅沢しなければかなり生活費を抑えられる。だからといって、それほどひどい生活をしなければならないわけではなく、「庶民的」というぐらいでかなり安いのだ。「高級」でなければ安いという感じか。

たとえば、恵はタイではよく屋台で食事していたが、今日本でも人気のガパオ・ライスが当時1バーツ3円時代で25バーツだから75円ぐらい。ただ、恵は卵の両面焼きを付けるのでそれよりは少し高くなっていたが。

関係ないが、もしタイに行ってガパオの屋台を見つけたら「パッガパオ・ムウ・カイダーオ・ドゥアイ」と言うと「豚肉のバジル炒め(ガパオ)両面焼き卵付」が出てくるよ。卵が要らなければ「パッガパオ・ムウ」だけ。

但し、「ムウ」のところは「モウ」に近い発音にして、尚且つ「ええ?」と訊き返す時などに使うイントネーション(尻上げ)で言わないと向こうが聞き取れないので注意。後、鶏肉にしたければムウのところをガイ(カイに近い発音)に変えると良い。

 

 

元に戻って。

屋台飯はタイでは当たり前で、2時3時ぐらいになるとホテルの従業員なのか銀行員なのかは知らないが、スーツ姿(上着なし)のサラリーマンやOLが遅めの昼食を取っていたりする。彼らにとっては外国人用のレストランやホテルの食事は贅沢で、また、高いからといって旨いわけでもないからバカらしいのだろう。

恵はどちらでも食事していたが、概して屋台はどこも旨くて、レストランは店によるという感じだった。つまり、屋台の方がハズレがなかったわけだ。

宿についてはタイはあまり知らない。せいぜい1週間しかいたことがないので、常にそこそこきれいなホテルに泊まっていた。それでもだいたい3・4千円ぐらい。3千円を切ると急にボロくなる感じだったかな。

インドはもっと安く過ごせる。恵が泊まっていた宿は1ルピー3円時代で1泊200円~600円ぐらいのところ。いずれも水洗トイレで高い方はホットシャワーも出る。今は1ルピー1.6円ぐらいだからもっと安いだろうと思うし、当時、長逗留している人間の中には、1泊ではなく1ヶ月700ルピー(2100円)の所に住んでいる若者もいた。

食事は本当にピンキリで、ムンバイ(ボンベイ)の空港近くのボロい割りに高いホテルのモーニングが1000円だったこともあるし、また、現地人用の「お代わり自由」のカレーが20円ぐらいだったりもした。恵は当然、後者を好んで食べていたのだが、まあ、ここは特別安い食堂なので、通常の庶民用のレストランで野菜カレーを食べると20ルピー(60円)ぐらいだったかな。




後、さっき挙げた家族とは逆に、冬の間長野のスキー場でアルバイトをして暮らし、雪のない季節はインドでボランティアなどをして暮らしている30代前半の人ともインドで出会った。

冬の数ヶ月間、住み込みで働いて貯めたお金でインドに来て、その大半をマザーテレサのニルマル・ヒルダイ(死を待つ人の家)やシシュバワン(孤児の家)でボランティアをして過ごし、世俗が恋しくなるとタイに行ってビールを飲むのだそうだ。

聞くと、その人はもう何年間もそういう生活をしているということだった。つまり、住所不定。とは言っても、1年の大半を無償のボランティアをして暮らしているぐらいだから非常に真面目な方で、決して危ない人ではない。たとえて言うと、海外青年協力隊の人のような感じかな。もう少し宗教人ぽい感じだけど。

本当の動機までは恵には分らないが、話を聞いた推測では、彼はずっとボランティアをして生きていきたいと思っているようだった。つまり、日本にはそれを続けるための費用を稼ぎに帰っているだけという感じだったのだと思う。

まだインドがビザに関して緩かった時代だが、それでも半年に一度はインド国外に出なければならず、それもあって日本やタイに行っていたというのも理由の一つなのだろう。

恵はその時、「なかなか凄い生き方をしているな」と思った。年も2つほどしか違わない。

もし恵が、その時結婚していなければ、その人の生き方を「一時期」真似たかもしれない。恐らく途中でやめるだろうけど。恵はボランティアに対する想いがそこまで強くはないと思うので、ずっとは無理だろうと思う。

ただ、今日、この人のことを思い出して、今でもそういう暮らしを続けているのだろうか、また、そのためのアルバイトなどは今でもあるのだろうかと思い、ちょっと調べてみた。すると、現在でもそういうリゾート地のアルバイトはたくさんあるようで、これを見る限り、もしかしたら、今の方が多いのかもしれない。









全て同じ会社のサイトだが、リゾート全般・沖縄・温泉地・離島と、特集しているものが違ったので一応、4つ挙げておく。ただ、どのサイトから登録しても、どこのリゾート地にでも行ける。たとえば「沖縄特集」のサイトで登録してもスキー場や世界遺産、高原などの募集に申し込みこともできるわけだ。

このサイトで扱っているリゾートバイトの場合、基本的に寮費・光熱費・食費がかからないため、恵の知人のように貯金したい方には申し分ないと思う。

ああ、言い忘れていたが、インドで出会ったその人も趣味がスキーだったのだ。それもあってスキー場でバイトしていたのである。だから同じように、趣味がスキーの人はスキー場、沖縄好きやスキューバ好きは沖縄リゾートへ行けば、休日に旅費や食費・宿泊費がかからず趣味が堪能できて貯金もできるので、うまく自分に合った場所を選べば何重にも得な気がする。

年齢的には8割が20代の学生やフリーターということで、中には出逢いを求めて参加している人もいるようだ。

以前恵は「隣同士」で、最近は結婚どころか交際もしない若者が増えていることを心配していると書いた。交際しない理由が「様々な恐怖感」だったからだが、その点、同じ場所で働く者同士なら、学校のクラスメート以上に関わりができるだろうし、気心も知れて、お互いに惹かれ合う者同士が自然に付き合えたりするだろうから、そういう動機も大いにあって良いと恵は思う。

恵の知人がその後、どういった暮らしをしているのか詳しくは知らないのだが、風の噂では同じくインドに長逗留していた人と結婚したとは聞いている。何となく女性が苦手そうな人だったが、それでもやはり「同種」の人同士は惹かれ合うということなのだろう。

とにかく、心根の優しい彼には幸せになってもらいたいと、恵は今も陰ながら祈っている。



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