男性のウエイトトレーニング法・羞恥心の克服

おまえには羞恥心のカケラもないよな。。。

 

時々ジムで、細くいかにも初心者という人が、無理して高重量のパーシャルトレーニングだけを何セットもやり続けているのを見かける。ベンチに足を乗せ背を弓なりにした、いわゆる尻上げの状態で、しかもラックアウトから数センチだけの範囲で上げ下げしているのだ。

それをするのが悪いとは思わない。恵のように肩を壊している場合やたまにの刺激用なら。ただ、まだ筋肉が付いていない初心者で「それだけ」というのが問題なのだ。

 

 

既にある程度の筋肉が付いている人なら話は別。トップビルダーの中にも、種目によってはパーシャルでしかやらない人もいる。だが、パーシャルレップスでもほとんど可動域のないものは、神経系の「刺激」になるだけで、筋肉の肥大に役立つかどうかは経験的にも疑問が残る。

また、先ほど「高重量」と書いたが、「その彼にとっては」と言う意味で、実際には50kgぐらいだったのだ。つまり、50kgを数センチしか下せない筋力でパーシャルだけでやり続けていたわけである。これはほぼ完全なる初心者ということだ。

周囲の人が扱う重量と比べて20kgのバーだけでトレーニングするのが恥ずかしかったからそうしていたのかもしれないが、結局、彼は体型も変えられないまま、しばらくしてジムに来なくなってしまった。

もしかしたら、望む体型を手に入れられるかどうかの、ここが一番の分かれ道かもしれない。この羞恥心を克服できるかどうかが。




この初期の頃の恥ずかしさは、ジムでトレーニングする人なら誰もが経験したものだ。元々力が強い人でも似たり寄ったりで、20kgではないにしても、初めから50kg以上でトレーニングできる人はほとんどいない。

その人の体重にもよるが、生まれて初めてベンチプレスをやった時のマックスはせいぜい50kgぐらいのものだから、初めのうちはほとんどの人が30kg前後でのトレーニングを強いられる。

つまりは、どの人もそれを通過してきているので、バーだけでトレーニングをしている人を見て笑うことはないわけなのだが。。。気持ちは分かるが、せっかく始めたのにやめてしまってはもったいないし、熟練者から見れば、30kgも50kgもほとんど違いを感じないわけだし。。。




逆に考えれば、元々身体が大きく力が強そうな人の方がより恥ずかしいかもしれない。実際、ガリガリの人の次に、よく分からぬトレーニングばかりして、やがてジムに来なくなる人はこのタイプの人だ。

確かに、見た感じベンチで150kgぐらい挙げそうな身体をしていても、初心者の場合、実際には50kg以下でのトレーニングとなるわけだから、その横で60kgぐらいの細い人が100kg以上でトレーニングしていたりすると、それはやり辛いだろうと思う。

つまりは体型に関わりなく、ほぼ例外なく誰もが経験するこの恥ずかしさを我慢できることが、一番重要な資質かも知れないと思うのだ。




バーベル・魔法の道具」で書いたように、恵は20歳の時177cm54kgで空手を始めた。当然、初めはボコボコにされる。相手がたとえ高校生でも。これもウエイトと同じで恵以外でも皆そうなのだ。柔道やラグビーをやってた体格の良い人でも、やはり細い高校生にボコられる。

そのため、当時恵が通っていた道場で一番多くやめるのが「初日」だった。誰もが自信を持ってやってきて、初日でそれを打ち砕かれることと、子供に負ける恥ずかしさに耐えられないからだろう。

だが、その恥ずかしさに負けずに続けた場合どうなるかというと、知らぬ間にいずれ「ボコる側」に回っているのだ。

 

 

恵は入門した当初、黒帯の先輩の技を見て、「あんなもの受けたら死ぬな」とよく思っていた。それと比べ、自分のパンチや蹴りがあまりにヘナチョコに思えて情けなかった。が、嘆いていても仕方がないので、先輩たちにちょっとでも近付こうとして日々努力し続けていた。

だが、いくらトレーニングしても、相変わらず自分の攻撃はショボい。いくらかはマシになったような気はするが先輩と比べるとやはりヘナチョコ。だから、そのちょっとの変化を糧に希望を持って、また続ける。

そうこうするうちに、やがて自分が黒帯になっていた。が、その変化は日々少量ずつなため、やはり本人としてはあまり違いに気付かない。相変わらず「自分はたいしたことない」と思いながら、それを脱出するために努力していた。

だが、ある日、恵が合同練習前の人があまりいない時にサンドバックにワンツーを打ち込んでいたら、どこからか、

「あんなもん、当たったら死ぬぞ」

という声が聞こえた。見ると、少し離れたところに白帯が2人、立って見ていたのだ。

その時の恵の感想は当然、「えっ、そうなん?」というものだった。

恵は組手でも先輩には思い切って行くが、後輩はほとんど叩かないし蹴らない。相手の攻撃をかわしてカウンターで軽く平手で腹を撫でたりする程度。それだけで相手が身体をくの字に折るためだったが、その理由はビビっているからだとそれまでは思っていた。

実際にビビっていることも関係しているとは思うが、それだけでもないようだった。その時、恵が白帯だった頃、よく先輩がくの字になっている恵に「ほんまに入れて(打って)ないんやで」と言っていたことを思い出した。

当時、恵は「それでも強すぎるやろ(強めに打ちすぎやろ)」と思っていたが、おそらく先輩たちも、撫でたつもりなのに恵がくの字になるので、呆気に取られて言っていたのだということに、その時初めて気付いた。

 

 

過去の自慢に聞こえるかもしれないが、そんなつもりはない。空手はもうとっくにやめたので、今は人に「空手をやっていた」ということすらできる限り言わないようにしている。スポーツ暦を訊かれても、多くは「特に。肥満予防にたまにウエイトしているぐらい」としか答えない。今現在していないことにあまり意味を感じないからだ。

ではなぜ、このブログでそれらについてよく話すのかと言うと、それは話したいことや勧めたいことのための「例」や「説得力」のためである。「バーベル・魔法の道具」を読んでみてもらっても分かると思うが、圧倒的にカッコ良い部分よりカッコ悪い部分の方が多く書かれているはずだから。

恵は単に若者を応援したいだけなのだ。今まで実際に多くの若者と関わりそうしてきたし、このブログでもそれをしたいだけである。

で、じゃあ、今回は何を言いたいのかと言うと、

「何をするにしても、初めは何でも同じようなもので、それがスポーツでも文科系のものであっても、初期の恥ずかしさは付き物。それに耐え続けた者だけが結果を得ることができる」

ということ。

つまり、長々と恵自身の恥を晒してきたのは、自分が望む筋力や体型を得るために、ウエイトでも何とか初期の恥ずかしさに耐えてほしいという想いからである。




同じような恥ずかしさを経験している初心者の人は「ウエイトトレーニングでも才能?(ハードゲイナーへ・その②)」も読んでみてほしい。もし笑う人がいれば笑わせておけば良いのだ。最終的には続けた者の勝ちだから。

もう一度言うが、初めは誰もが同じようなもので、今100kg以上をほいほい挙げている人たちだって、20~30kgでトレーニングしていた時期があったことを忘れずに、今できる重量でのトレーニングを頑張ってほしいと思う。

 

PS. 恵は白帯の頃から、多くの先輩たちになぜかその存在を覚えられていることに気付いていた。それが非常に不思議だった。通常、先輩は全員覚えていても、いつやめるかもしれない後輩たちのことなど、あまり気にもしないからだ。

だが、恵はそんな注目されるほどの何も持ち合わせていなかった。ガリガリで力も弱く、運動神経やセンスが良い人間は他にいくらでもいたし。しかし、自分が上の立場になった時、その理由はすぐに分かった。

上から見ると、続ける奴とやめる奴が分かるからだ。そして、それは力量とは全く関係がないのだ。どれだけ細かろうがドン臭かろうが続ける奴は続けるし、センスや力があってもやめる奴はやめる。

「意志」とでも言えば良いのだろうか、やめない奴は「やめない」というのが伝わってくる。確かに恵は腰痛でやめざるを得なくなるまで、やめたいと思ったことが一度もなかった。それが、自分が先輩になった時、後輩の中にも見えるのだ。

だから、たとえ、その子がどれだけ細かろうが下手だろうが、バカにする気が起きたことは一度もない。ただ、「やがてこの子も強くなるのだろうなあ」と思っていただけである。

それはウエイトでも同じで、周りばかり気にしてよく分からぬトレーニングしかしていない子を見ると「ああ、後2・3回来るかどうか」と思うが、逆に、バーだけでトレーニングしている子でも「うかうかしてるとすぐ追い抜かれるやろな」と思う子もいる。

そういうものなのだ。先輩たちの視線の意味は。

だから目的を達成したいなら、あまりそれら(恥)には気を止めず、是非とも前者には回らず後者になってほしいと思う。

 

 

 

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