天心と武尊

父ちゃん、最近、遊んでくれる時間短くなってない?

 

先日、RIZINという格闘技イベントをテレビで見た。いつも見ているのだが、那須川天心が藤田大和と戦って勝利した。




那須川天心を知らない人のために少しだけ。彼は極真空手上がりのキックボクシングのチャンピオンであり、総合格闘家である。まだ19歳にも関わらず、もう既に難攻不落と言われるムエタイの現役チャンピオンまでもKOしている逸材だ。

だが、今回の藤田大和はなかなか強い相手でMMA(総合格闘技)では初めてKOできなかった。藤田はボクシングベースだと聞いていたが、実際には極真空手やキックボクシングの経験もあり、蹴りに対応できるだけでなく、自分が蹴ることもできた。天心相手に重いローキックを放ったりしていた。

 



 

通常蹴り対策を全く講じていないボクサーの場合は、ローキックなどを食らうと意識しなければならない範囲が経験したことのない広さとなり、その分注意力がなくなり、パンチでさえ食らいやすくなる。実際、世界チャンピオンクラスのボクサーが、キックボクサーにパンチで倒されたりもしているのだ。

このことは恵自身も経験していた。いや、世界チャンピオンをパンチで倒したのではなく、ボクサーが蹴りで注意力をなくす場面を目撃したという意味なだけだが。。。

 

 

恵は若い頃、某フルコンタクト空手を習っていて、一応黒帯も取っている。腰痛が治らず歩行困難になったりして道場に行かなくなったのだが、それからしばらくしてから知り合った友人の一人に、昔プロボクサーだった男がいた。その男が会うたびに何度も「蹴りなんて簡単に避けられる。パンチより遠くから来るしノロいから」と言うのだ。何でも某フルコンタクト系拳法の全日本準優勝だか3位だかの友人がいて、その人物の蹴りを余裕で避けられたから、というのが理由らしい。

「へえ、、、数年やってる俺らでも食らうこともあるのに。ボクサーは違うのかなぁ」と思っていた。

その頃、彼は指導者としてアマチュアを教えながら、同時にまだ少しは自分のトレーニングも続けていた。恵は何度もその練習場所に来いと誘われていた。

「サンドバッグ、蹴ってもええから」

そう言われ、一度行くことにした。その頃の恵はまだ空手に復帰したいと思っており、同時にボクシングを習いたいとも思っていたからだ。恵の習っていた空手は蹴りは顔面OKだが、パンチはダメだ(練習時、実際に顔面ノーガードだとバチーンと叩かれたりするが)。だから、どうしてもそこが恵にとっては気になって仕方がない部分だった。それでいずれはボクシングも習ってみたいと思っていたのだ。トラブル時、まず狙われるのは顔だからだ。それも蹴りではなくパンチで。



「好きに蹴って」

2人しかいないジム内で、彼にそう言われ、恵は左右のローを幾らか蹴った。するとしばらくそれを見ていた彼が、

「ちょっと待って。何か違う」

と言い出した。どうやら自分の拳法の友人と蹴りの質が違うらしい。まあ、そら、流派で違うやろうし。。。そう恵が思っていると、何かを考えているようだった彼が急にヘッドギアとグローブを付け、「ちょっと蹴ってきてくれへんか」と言う。

「ええ、、、大丈夫か?」

恵は心配したが、彼はギアがあるから大丈夫だと言い張る。

それで仕方なく、軽くローを蹴った。

「アイタタタッ」

そのまま食らい、痛さに足をさする。

「やめとこや」

「いや、もっと蹴って」

仕方なく、避け方が分からず飛び跳ねながら逃げる彼をローで追いかけていた。向こうもパンチをいくらか出すが、後傾でローを蹴れば踏み込みのないパンチは届かない。そのうち、癖で左ハイに繋げてしまった。空いていたからだ。

蹴りがヒットする寸前の彼の顔は今でも覚えている。あの「えっ?」という表情とどこを見ているのか分からない視線。恐らくは本当にどこを見たら良いのか分からなくなっていたのだろう。

当然スピードだけで、というか、足を上げた程度で蹴り込んではいない。ヒットさせる場所も、いくらヘッドギアがあるからとはいえテンプルや顎では危ないので、蹴り出してからコントロールするとちょうど耳のあたりにヒットした。

「アイタタタッ・・・」

ヘッドギアの耳の部分は聞こえるように穴が開いている。案の定、彼はうずくまった。耳が痛かったからだ。

それ以来、「ボクサーは誰でも蹴りを避けられる」説を彼は言わなくなった。

 

 

これはもう何十年も前の話であり、情報社会の現在では有り得ないことだろう。だが、なぜかその当時はボクサーはどうもマイナーなキックボクシングを馬鹿にする傾向が強かったように感じる。我々の世代よりかなり上の世代であるガッツ石松さんなどは現役当時、その頃創世期にあったキックボクシングの事を「軍鶏のケンカ」と言って物議を醸しだしたという話を何かで読んだ記憶さえある。おそらくは国際式ボクシングのチャンピオンのプライドからきた発言なのだろうが。。。

恵にしても、当時まだUFCもPRIDEもない時代で、〇〇ベース対✕✕ベースの対決のような図式はあまり見ていなかったため、上記のような結果になることは分からなかった。が、それから数年後K-1ができ、ボクサーがキックのリングに上がってきた場合などに、やはり同じような光景を何度も目にするようになった。ローの避け方が分からず、注意力が低下したところへパンチをもらうボクサーを多く目にした。

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ここで一応断っておくが、恵は何もボクサーがキックボクサーより弱いなどと言っているわけではない。ボクサーはやはりパンチの技術では他の格闘技者より遥かに上だと思っているし、蹴り対策タックル対策を講じた場合、総合でもかなり強いと思う。



そもそも恵は「どの格闘技が一番か」という論争は好きではないのだ。そんなものは個人差だ、と思っている。たとえば柔道家の吉田秀彦は、打撃練習をそれほどせず、対策もそれほど講じていなくても総合の試合で一線級と互角以上の戦いをした。いや、彼も対策をしていたのかもしれないが、例えば秋山のように元々打撃の選手かと思うほどの適性は見せなかった、という意味だ。吉田はやはり見ていて柔道家だな、と思う戦い方だった。が、パンチも打撃選手のそれではないのにも関わらず、ヴァンダレー・シウバの打ち合いに応じ、結構効かせていた。必死の(でたらめ)パンチが当たるのだ。形より何より、実際面ではその方が「適性」だと言えるのだろうが。。。

 

ねえ、父ちゃん。。。

 

恵は幼少期から格闘技を見るのが大好きだった。音楽同様、種類にはこだわらない。ボクシング・キックボクシング・空手・柔道・レスリング・総合格闘技、何でも見る。特に打撃の試合はよく会場にも足を運んでいた。そんな恵が今一番見てみたい試合が「那須川天心vs武尊」戦である。そして、見たくない試合も同じなのだ。



現在、打撃系格闘技ファンの多くがこのマッチメイクに期待しているようだが、各団体の看板選手ということもあり、なかなか実現は難しそうである。恵はそれを悲しくもありホッともしているというのが正直なところ。対決すれば、どちらかが負けるからだ。二人ともKrush・Riseの頃から見続けてきている選手なので感情移入しており、どちらの負ける姿も見たくないのだ。

年やな。。。

そう思う。若い頃なら、こんな考え方はしなかったかもしれない。が、少々年を取っている人なら理解してくれるかもしれない。なんか、自分の息子たちの対決を見るような感覚。どちらも、近年では稀に見る感動を与えてくれている選手である。

けど、どっちが勝つのかな。。。

天心が負ける姿が想像できない。あのカウンターのセンスは類を見ない。が、武尊もヤバイ相手を悉く下してきている。追い込まれた時に発揮する力は二人とも尋常ではない。

やっぱり見たい、かなぁ。。。

ファンのみならず、魔裟斗はじめ元選手たちや格闘技関係者も待ち望んでいる対決。

やはり実現すべきなのかなぁ。。。

恵が今言えることは、とにかく実現したら、何が何でも生で見る、ということだけである。

やっぱり見るんかい。。。

 

 

今日はもうすぐ村田諒太の世界戦がある。あの不可解な判定だった試合のダイレクトリマッチだ。これもやはり生で見ないことには。

では。

 

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