涙がこぼれそう(The Birthday)

言わずと知れたThe Birthday屈指の名曲である(と恵は思う)。

ん、知らない?

では、そういう方のために少しだけ。

The Birthdayは、元THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(ミッシェルガンエレファント)のチバユウスケがROSSO(ロッソ)を経て2006年に結成したロックバンドである。恵はジャンルにはあまり詳しくないのだが、恐らく彼らの音楽はガレージロック・ブルース・ロカビリー・ロックンロールの色合いを持つものが多いように思われる。

 

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The Birthdayになってからは、あまりメディアに対する露出は多くないようだが、ミッシェルの頃のミュージックステーション出演時のエピソードは有名である。あの「t.A.T.u.(タトゥー)ドタキャン事件」だ。

当時世界的に大人気だったロシアの女性デュオ「t.A.T.u.」が、オープニングには出たものの、それ以降楽屋から出て来ずドタキャン。ご存知の通り、Mステは生放送であるため、どのアーティストもなかなか生演奏に対応できない。スタッフが慌てふためく中、既に「デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ」を演奏し終えていたミッシェルのベーシスト・ウエノがCM中に「俺らもう一曲歌えたじゃん」と冗談交じりに言ったところ、「是非」ということになって「ミッドナイト・クラクション・ベイビー」を急遽演奏しその場を救った。



その日の出演陣の中で生バンドはミッシェルだけだったのが最大の要因ではあるが、彼らは元々ライブは全て自分たちで演奏しているため、もう一曲どころかやろうと思えば何曲でもできたことだろう。スタジオは拍手喝采の嵐、タモリも絶叫。その後、t.A.T.u.の日本での人気は急降下し、逆にミッシェルの名は日本国中に知れ渡ったのである。

 

父ちゃん、遊ぼ! アン♀推定5ヶ月時

 

このエピソードでも分かるように、チバユウスケ率いるバンドはどれも男っぽい。男が男に惚れる、そんなカッコ良さがある。見た目はそんなにいかつくはない。そういう意味ではなく「生き様」のようなものだろう。それが雰囲気や音として表れているように感じる。逆に見た目はやたらいかついのに、実際には客に媚びまくるようなバンドもあるし。まあ、それはそれで良いケド。。。




彼らはライブのMCも結構そっけない。昨年のThe BirthdayのZepp Nambaでのライブの時にチバが発した言葉(歌以外)は、「春めいてきたねえ」を何故か2回と「おおさか・ふ」だけだったと記憶している。後は「ありがとう」ぐらい。

だが、そんな彼らも先月の堺東Goithの時は結構話していた。収容数2000人程のZepp Nambaと比べGoithはオールスタンディングでキャパ200人。やはり小さいハコ(ライブハウス)の方が、幾分親近感が増すのだろうか。
いや、そうではないか。広いところだとどうしても遠くへの語り掛けとなり「みんな! ノってるかい!」みたいな感じになりがちだが、シャイな彼らにはそれは無理。狭ければ友達との会話のように話せるからだろう。

チバ「(呟くように)本当は明日俺らの物まねバンドコンテストがある予定だった。だが、誰もエントリーしなかった」
たぶんクハラ「中止になったそうです」
チバ「お前ら、何とかしろよ! 寂しいじゃねえか。。。」

そう言って笑っていた。そして、それからしばらく経ってから、

チバ「良いこと思いついた。カラオケにしたら良いんじゃない?」ともスタッフに向かって提案していた。

 

アタシ、バースディちょっと苦手なんですけど。。。

 

我々夫婦はいつもは指定席のあるライブに参加する。それはバースデイ以外の時でもだ。理由は単純に「年だから」である。立ったまま狭いハコの中で2時間以上揉みくちゃは辛い。体格が幾分ある恵はまだしも、嫁は小さいので心配でもある。だが、今回はその嫁が乗り気でトライすることになった。

「後ろの方に立ってたらええやん。みんな前に行きたいやろうし」

という嫁の思惑は外れた。後の方に入ってそのまま後ろに、と考えていたが、さすが年寄りの多いライブ、、、あっ、いや、長年のファンの方々が多いライブで既に後ろの壁際はすべて埋まっていた。(注・若者も多くいる)

仕方なく、中央より少し後ろの方に立った。「もう少し詰めてください!」係員の声で全体が前に移動。それを何度か繰り返すうち、恵たちは結構前の方に来ていた。

 

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ライブが始まった途端、後ろから押されまた少し前へ。いつもはかなり後ろで見ている(2階席)ので、メンバーを拡大鏡で見ているような錯覚に陥った。近いのだ。歌いながら乗り出してくるチバに手が届きそうな気がした。実際にはまだその時は5mぐらいは離れていたのだとは思うが。

みんな踊っているのでやはり結構人とぶつかる。それが嫌だったらしく、嫁はすぐに後ろに下がっていった。恵はそのままそこでみんなと踊っていた。
チバとよく目が合う。なんかそれが気になっていつもより入り込めない。慣れないのだ、そういうのは初めてで。





中盤以降、一人、また一人と、前にいた人間が後ろに下がっていく。そのたびに恵は前に移動する。気付くと、恵の前には波ができていた。いや、初めからあったのだろう。ただ前の人で見えなかっただけだ。恵がその瀬戸際まで移動してきて初めて気づいたわけだ。

横長の一つの胴体にいくつもの頭がくっついたような物体が、右へ左へゆっくり揺らめいている。前3列ぐらいの全員が一体化しているのだ。団子三兄弟ならぬ団子百兄弟みたいな感じで。

「これに巻き込まれたら、終わるな」

終盤、恵は何度もふっと意識を失いそうになった。いつも踊りながら一緒に歌っているのだが、酸欠になり何度も歌うのをやめた。この団子百兄弟の近くはやたら空気が薄いのだ。

それで下がっていく人がおるわけや。。。

恵は何とか最後までその場で耐えたが、その代償として大好きな「涙がこぼれそう」をあまり歌えなかった。いや、歌えなかったどころか終盤は自分がどうしていたのかさえ、いまいち思い出せない。かなり朦朧としていたようだ。この曲を中盤までにやることはまずなく、だいたいはアンコールでやる。「後ろに下がって力を温存するべきだった」と涙がこぼれそう、、にはなっていないが、少しさびしい。が、その後、最期までその場所にいたことが功を奏する結果となる。

ライブが終わり、メンバーが帰っていく時、チバやフジケンを見送っていた恵の額に何かが当たった。反射的にその当たった物の軌道を追って振り返ると、後ろに立っていた女性がちょうどドラムスティックを掴んだところだった。恵に当たったのはクハラの投げたスティックだったわけだ。

当たったのに取れなかったことを少し残念に思いながら前を向いた途端、恵の目の前に何か黒いものが飛んできた。恵は反射的に左手でそれを掴んだ。

「うわっ」

何やらぐっしょり濡れた感触。ちょうど濡れ雑巾を不意に投げ渡されたような、あまり快い感じではない。が、それはクハラの投げたTシャツだったのだ。

 

 

偶然かもしれないが、もしかしたら、スティックを当ててしまった詫びとして、恵に向かって投げてくれたのかもしれない。クハラの人柄からはそういう気がしないでもない。無口な他のメンバーと違い、クハラは快活なタイプに見え、いつも帰る前に飲みかけのビールを前の客に手渡し、スティックとTシャツを投げてから帰る。だが、その日恵はスティックは他のメンバーを見送っていて、Tシャツはスティックを追って振り返っていたためにクハラが投げるのをどちらも見てはいないので、真相は分からない。が、いずれにせよ、ラッキー。

 

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「匂い、嗅いでみぃ」と、会場を出て少ししてから嫁が言った。女は何でもすぐ匂いを嗅ぐ。

「いらんわ。そんなもん」

「臭くないでぇ。ほんまに」

何度か押し問答した後、恵は仕方なく匂いを嗅いでみた。

「ん?」

確かに全く臭くなく、逆に良い香りがする。香水なのだろうが、きつい匂いではないのに全く汗の臭いはしない。ぐっしょり濡れているのに不思議な感じだった。

 

 



この件で唯一残念なことは、Tシャツがかなり小さかったこと。恵は絶対着られない。普通は着ずに保管なのかもしれないが、恵は着てライブに行きたかった。
「私でも着られるかなぁ」Tシャツを広げながら嫁が呟いた。嫁は中年太りになり始めているとはいえ元々華奢な方なのだが、どうやらクハラをそれを上回るぐらいに細いようだ。

日本のロッカーって、ほんまに細いなあ。たとえそれがドラマーであっても。。。

 

裏向けるとなんや違う生き物みたいやな。こいつ。。。

 

もしThe Birthdayの曲を聞いたことのない人がいたら、是非とも一度聞いてみてほしいと思う。骨太ロック好きはもちろん、バラード系の曲も多くあるのでそこそこ万人受けすると思うのだが、どうだろう。たとえば「劇場版NARUTO疾風伝火の意志を継ぐ者」でPUFFYが歌っていた主題歌「誰かが」という曲はチバが作った曲。ああいう曲も多くある。ちなみに恵はバースディ版の「誰かが」の方が好み。PUFFYも良いけどね。



出しているアルバムが多く、初めにどれを買うか迷うと思うが、捨て曲のない彼らのアルバムだから、どれでも外れないのではないだろうか。

が、やはり初めはベストアルバムに当たる2枚組の「GOLD TRASH」をおすすめしたい。この2枚でThe Birthdayがどういうバンドか分かると思うし、また逆に、これを聞いて良いと思わなければ、たぶんアナタには彼らは合わないのだろうと思う。(言い切って大丈夫かな。。。)

 


GOLD TRASH(完全生産限定豪華盤)(Blu-ray Disc付)

 


NOMAD(通常盤)

 

それでもし気に入ればニューアルバムの「NOMAD」も買って、ライブに行こう! まだ間に合う会場もあるから。



彼らのライブでは、CDを聞いて「それほど」と思っていた曲が、実はすごく良い曲だったと分かることが多い。完全にライブ向きの曲ってあるのだと知らされる。

我々はまた来月Zepp Osaka baysideの彼らのライブに行く。今から楽しみで仕方がない。

 

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