イカ天

イカの天ぷらの方ではなく、89年から90年にかけて放映されていた「イカすバンド天国」の方のことである。

 

アンタ、目が怖いよ、アン。。。

 

イカ天は恵の住む関西では放映されていなかったのであるが、嫁が結婚するまで中部に住んでいたため、会いに行った時にたまたま見た。その回は後にプロとなる異色のバンド・「たま」が「さよなら人類」を演奏した日だった。

恵はすぐ「たま」を気に入り、それからは毎週録画してもらって会いに行った時に見ていた。ちょうど良い回を初めに見たためにそれ以後、見続けることにしたが、もしそれがハズレの回だったらと思うと、ちょっと怖くなる。なぜなら、その後、「たま」以上に恵が気に入るバンドが出てくるからだ。

 

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イカ天はバンドが何組か演奏して審査員がチャレンジャーを1組選び、そのバンドが前回王者・イカ天キングと対決する、という方式で、5週勝ち抜くとグラントイカ天キングの称号を得、メジャーデビューできるという仕組みだった。

イカ天出身バンドと言えば、よく知られているところではBIGINだろう。だが、この番組、意外に多くのプロを生み出している。FLYING KIDSなどグランドイカ天キングはもとより、5週勝ち抜いていなくても結構な数のバンドがメジャーデビューしている。

Whiteberryの「夏休み」は6代目キングのJITTERIN’JINN(ジッタリン・ジン)の曲をカバーしたものだが、彼女たちは1週しか勝ち抜いていない。他にもBIGINに敗退したC-BAなどは、チャレンジャー止まりだったにも関わらず、後にアニメ「F」の主題歌を歌っている。その他、チャレンジャーにすらなれなかったバンドでもデビューした者たちも割といるのだ。




ちなみに、恵が見たのは14代目キングの「たま」からだと言ったが、その後レンタルビデオでそれまでの回のものをほぼ全部見た。当時、やはり一番印象に残ったのはC-BAの「旅でスカ」だ。

タイトルを見た時、「えらいふざけた題やな、アカンかな、これは。 『旅ですか?』と『レゲェ・スカ・ロックステディー 』のスカを掛けてる? コミックバンド?」と思ったが、前奏が始まった途端、「これはメジャーの音や」と思った。「メジャー音・マイナー音」の方ではなく、「プロの音だ」と言う意味の方。言葉ってややこしいね。

 

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嫁(当時は彼女)に会いに行ったある日、彼女はまだ仕事で帰っておらず、恵はいつも通り、まずイカ天を見ることにした。その日の出演者の中に、腕にタトゥーを入れた、いかにも対人が苦手そうなボーカルがいた。

「ああ、こいつは音楽やるしかない奴やなぁ」

と、すぐに思った。これは褒めているのだ。恵はよく「格闘技するしかない奴」「音楽するしかない奴」と評する。どちらも恵自身が少しは齧ったものであり、その中でもプロになるような奴、と言う意味だ。愛想の良い格闘家もミュージシャンもいるので説明は難しいが、今言っているカテゴリーの人間はその道でしか「表現」ができないタイプ、自分を表せないタイプだと感じるのだ。



数か月前に録ったとされるそのバンドの演奏が始まる。収録はとっくに終わっていたのだが、何の都合か、このバンドは随分出番を待たされたようだ。ボーカルはリーゼントにタトゥー、3ピースであるところなど、見た目はアメリカのロカビリーバンド・ストレイ・キャッツのコピーバンドのようだった。

「ほんまにBIGINみたいにアレンジコピーでもやんのか?」と思った。内容が良ければコピーでも良いらしく、実際、BIGINはエリック・クラプトンの「Wonderful Tonight」で先のC-BAを倒している。初め、恵はこの曲がクラプトンのものであることを知らず、「とんでもない天才バンドが現れた。そら、なんぼC-BAの曲が良くても、これには勝たれへん」と思ってしまったのだ。お恥ずかしい。。。

 

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タイトルは「CAT WAS DEAD」。演奏はボーカルのカッティング・ギターから始まった。その途端、本当にその途端、音のあまり出ないスカスカ言わすカッティングを聞いただけで、恵は絶対にこのバンドは5週勝ち抜くと思った。この辺は説明不可能。しいて言えば、その感性とでも言えば良いのか。

カッティングの後、ロカビリーのフレーズが続くのだが、ストレイ・キャッツのような明るさはない。何かもっと吹き溜まっているような迷走しているような音が続く。なかなか良い。どんな世界に連れていかれるのか。

歌い始め。ん? かなりダミ声? これはそれほど好きではない。が、フレーズ終わりに「アーッ」とファルセットシャウトとでも呼ぶのだろうか、シャウト気味のファルセットを入れるのだ。これにより、それまでのマイナス? がプラスに感じる。

結果、このバンドはキングを倒し、風邪で声が出ず何を歌っているのか分からない時でも、最強のチャレンジャーだと思われたウェザーコックスまで下して5週勝ち抜き、晴れてグランドイカ天キングとしてメジャーデビューした。




コアなロック・ロカビリーファンならもう(とっくに?)お気付きだろうが、これが知る人ぞ知るTHE BLANKEY JET CITY(ブランキー・ジェット・シティ)が初めて世に出た瞬間である。彼らは音楽界の大橋秀行(現日本プロボクシング協会会長)とでも言うべきか、「プロに好まれるプロ」だと評されていた。玄人好みというやつだ。

若い人はあまり知らないかもしれないが、「涙がこぼれそう」で書いた恵の好きなThe Birthdayも主題歌を務めた映画「クローズ・ゼロ」シリーズの1作目の曲はブランキーのボーカル・浅井健一のものである。誰もが知る椎名林檎も彼の大ファンだが、彼女以外にも多くのミュージシャンをファンに持つ。

実は恵は、チバ・ユウスケ(The Birthdayのボーカル)のファンになる前に浅井健一のファンだったのだ。この二者はブランキージェットシティーとミッシェルガンエレファント時代から交流があり、両者の解散後は、チバが元ブランキーのベース・照井利幸とロッソを結成しているし、現在はThe Birthdayと並行してThe Golden Wet Fingerというバンドで元ブランキーのドラム・中村達也と一緒に活動している。




いつも通り、おすすめを挙げるなら、恵はやはりデビューアルバムということになる。残念ながら、このアルバムの「CAT WAS DEAD」はカッティングで始まらず、また別の演奏方法になっているが、これはこれでまた良い。

 


Red Guitar and The Truth

 

バースデイや元ブランキーの彼らには、これからも頑張っていってもらいたいが、若い世代の中からも彼らのような骨っぽいバンドが出てきてくれたら、と思う。凛として時雨やFear, and Loathing in Las Vegasやゲスの極み乙女、GALNERYUSやMintJam などを聞いていると、現在の日本の音楽シーンは技術的にも展開的にも混ぜ方的?にも、究極に達しているように思えるので、もうそろそろそういう「単純」なロックの時代に戻るのでは、と期待している。なぜなら、音楽ブームは結構短いスパンで変化し、その中で何度も原点回帰する傾向にあるからだ。

 

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